テニスのチャレンジシステムとは
プロテニスの試合中は、主審(チェアアンパイア)と線審(ラインアンパイア)でジャッジしていますが、人の目で判断しているのですから当然誤審が起こり得ます。時速200Kmを超える打球のイン・アウトを見分けるのは、ベテランの審判員でも完璧にジャッジすることは難しいでしょう。
そのため、テニスには少し前から「チャレンジシステム」が導入されました。このシステムの導入により、導入前よりもはるかに誤審やトラブルが減りました。この記事では、そのチャレンジシステムの仕組みについて解説します。
チャレンジシステムとは
審判員のイン・アウトのジャッジに不服があった場合、選手は主審に異議を申し立て、ビデオ判定に持ち込むことができます。これがチャレンジシステムです。 例えば、選手自身が相手のコート内に打ち込んだと思ったボールを審判員が「アウト」とコールすれば、選手は「今のボールはインではないのか?」と主審にチャレンジを要求します。チャレンジが要求されると結果が出るまでゲームは一時中断し、大きなスクリーンの映像でボールの落下点を確認します。
ホークアイ(Hawk-Eye)
チャレンジは、ビデオ(CG映像)で確認します。現在は、ホークアイという技術が使われるようになってきました。ホークアイのカメラは日本のソニー製で、判定技術の総称を「The Hawk-Eye Officiating System」と言います。
「鷹の目」のように高い視点から、複数のハイスピードカメラを使用することで、ほぼ正確にボールの動きを追うことができます。その解析結果を、ボールの軌道や落下点として、3Dで映し出します。
ホークアイの登場によって、より正確に、公平にジャッジできるようになりました。また、観客やテレビ視聴者までもが、ビデオ判定によって一喜一憂する興奮が味わえます。
1ミリ単位で試合の流れが変わってくることもあるので、今やホークアイの高い技術はプロの試合に欠かせない技術と言えるでしょう。
チャレンジシステムのルール
審判のジャッジに不服があるたびにチャレンジできるというわけではありません。公平に進行されなければならないプロの試合ですから、当然ルールがあります。 ここでは、チャレンジシステムのルールをご紹介します。
チャレンジを要求する権利
チャレンジできる回数は、1セットにつき各選手3回までです。
チャレンジが成功した(審判のジャッジが誤っていた)場合、チャレンジ可能な回数はそのまま残ります。しかし、チャレンジが失敗した(ジャッジが正しかった)場合、回数が減ります。つまり、3回失敗するまでは何度でもチャレンジを要求できるのです。
またタイブレークに突入した場合は、残り回数に1回分プラスされます。次のセットになると、チャレンジ権は3回分に戻ります。
回数が決められていることもあり、チャレンジするかどうかの参考にすべく、たまに選手が主審に確認する場面もあります。「今のどれくらいイン(アウト)だった?」「これくらい出てたよ!」といったやりとりも見られます。
要求する宣言とタイミング
前述した通り、選手は主審に対して「チャレンジ」と言った時点で、チャレンジの要求が成立します。しかし、ジャッジに不服があってチャレンジを要求する場合、選手は即座に宣言しなければなりません。
チャレンジをするような際どいボールというのは、それだけその直後のボールでポイントが決まりやすい状況とも言えます。そのため、選手としては、「相手に際どいボールを打たれて攻め込まれ、それに対して返球できたかどうかを見て、もしうまく返球できなかったらその前の相手のボールにチャレンジする」ということができてしまいます。それを防ぐため、即座のチャレンジ要求が必要なのです。
ジャッジから要求するまでの時間が明確に決められているわけではありませんが、ある程度の時間が経過した後だったり、そのままプレーを続けたりするとチャレンジが認められない場合もあります。
場合によってはプレーを自ら中断してまで行う「チャレンジ」は、選手にとってはまさにチャレンジングですね。
チャレンジ結果が出たとき
チャレンジの結果が出てからの対応は、元の判定が「イン」だったか「アウト」だったかで異なります。
相手の打ったボールが「イン」だったという判定に対して、「アウト」ではないかというチャレンジを自分がしたとします。これが成功した場合には、自分にポイントが入ります。反対に失敗した場合、当然ポイントを失います。
では、自分が打ったボールが「アウト」だったという判定に対して、「イン」ではないかという場合はどうでしょうか?これが失敗だった場合はもちろんポイントを失います。しかし、成功した場合には、必ずしもこちらのポイントになるわけではなく、ポイントのやり直し「リプレイ・ザ・ポイント」となる場合もあります。
チャレンジシステムの問題点
チャレンジ後のポイントがどうなるかは主審が決めるのですが、これが問題になることがあるのです。
判定が「アウト」から「イン」に覆った場合
先ほどの、自分が打ったボールが「アウト」だったという判定に対して、「イン」ではないかというチャレンジをした場合を考えてみます。しばしば問題となるのは、このチャレンジが成功した場合です。
自分のボールが確実にウィナー級のボールであった場合、「イン」であれば当然ポイントが決まっていたため、自分の得点です。しかし、そのボールを相手も返球できていたのであれば、プレーをやり直す「リプレイ・ザ・ポイント」となります。
「イン」判定ではなく「アウト」ではないか? | 「アウト」ではなく「イン」ではないか? | |
---|---|---|
成功 | チャレンジした選手が失点 | チャレンジした選手が得点 or ポイントのやり直し |
失敗 | チャレンジした選手が得点 | チャレンジした選手が失点 |
重要なのは「返球できていれば」という条件です。相手の返球が甘いボールで、次で決められるような場合でも、チャレンジの結果リプレイとなる場合が多くあります。
また、別の観点として、相手は「アウト」のボールを聞いたために返球しなかったというケースもあります。これがまた厄介で、どんなに自分がいいボールを打ったとしても、少しでも届くようなボールであれば、相手は「アウトコールがあったからわざと返球しなかったんだ」などといった言い訳ができてしまいます。
このように、各ポイントを総合的に考え、最終的に主審が対応を決めます。そのため、複雑なケースでは主審の判断に委ねられるところもあり、問題となります。
2019年全豪オープン錦織vsカレーニョ・ブスタの場合
チャレンジを巡って問題が起きた試合をご紹介しましょう。2019年の全豪オープン4回戦、錦織VSカレーニョブスタ戦でのことです。
カレーニョブスタの打球がネットに当たり、錦織選手のコートに落ちたことから始まります。そのボールを錦織選手が拾って、見事にウィナーを決めました。何事もなく、次のプレーに移る・・・ところですが、錦織選手が打ったのと同時に、線審が「アウト」とコールしたことによって問題が起きたのです。
アウトコールを聞いて、カレーニョブスタがチャレンジしました。ですが、よく考えてみてください。カレーニョブスタの打球が「アウト」なら、錦織選手のポイントですよね。「イン」でもウィナーを決めた錦織選手のポイントです。どんな結果でも錦織選手にポイントが入るのは明らかですから、カレーニョブスタがチャレンジをする必要はなかったのです。それなのに、チャレンジが実行されました。
結果は「イン」で、カレーニョブスタのチャレンジは失敗です。それを受け、カレーニョブスタは激しく主審に抗議しました。
線審がもう少し早くジャッジしていれば、あるいは主審が冷静に対応していれば問題ない場面でしたが、最終セット(5セット目)のタイブレークという、選手も審判もみな緊張していたために起きたトラブルなのかもしれません。
ここまでカレーニョブスタがリードしていましたが、チャレンジを境に連続失点。結局、錦織選手が逆転勝ちしました。まれな出来事でしたが、緊張感の続く中ではこういうことも起こり得るのでしょう。
チャレンジシステムが導入されていないコートも
大会やコート(下位選手が試合することが多い)によっては、チャレンジシステムが導入されていません。センターコートなどトッププロがプレーする大きなコートでは、ほとんどの場合導入されています。しかし、観客席の小さいコートなどには、チャレンジシステムがない場合もあります。
また、全仏などのクレーコートも、ボールの跡が残るという理由からチャレンジシステムはありません。2020年のリオ・オープンより、クレーコートでもチャレンジシステムの導入が開始されていますが、あくまで試験段階です。
過渡期にあるからこその問題ではありますが、権利が使えるかどうかが、大会やコートによって変わるということも、チャレンジシステムの問題点として考えられています。